遺跡馬鹿の普通感想

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【映画感想】 単騎、千里を走る 高倉健主演

この作品、どうも評判が悪い。
特に高倉健さんの滑舌がダメとか話が陳腐とか、面白くないとか…。
私はすっごく良い作品だな~と思ったので、そこら辺をちょっと書いてみます。

■高倉健さんといえば、中国では知らない人がいないくらい超有名な日本人です。
中国人の小娘でさえ、「男子漢-男らしい」と高倉健さんを絶賛します。
この男らしいの意味はズバリ「寡黙」だと私は思っています。
一般的に中国では感情表現が男性であっても豊かで、泣いたり、笑ったり、その様子はたとえジーサンであっても無邪気だな~と思わせるものがあります。
そんな彼らからすると、感情をグッと抑える高倉健さんの演技には何か惹かれるモノがあるらしい。
日本人には見えないけれど、中国人の目には見える何かが、この「単騎、千里を走る」の中に宿っていると私は思いました。

高倉健さんの「寡黙」は滑舌の悪さを誤魔化すための隠れ蓑…と指摘する人もいますが、これが彼の持ち味なんだもの…。
そこを批判するのは論点がズレていると言わざるを得ないし、何も役者だからと言って滑舌シャキシャキする必要もないと思う。
イーモウ監督が高倉健さんを選んだのは、感情を前に出す中国人と押し殺す日本人の違いを主軸に親子の情を描きたかったということだと思うし、私はずっとその対比を楽しんで観てたから、見終わった後も男親の思いの深さに感動しました。

■演出の巧みさで面白かったのは、息子の嫁から渡されたビデオテープを観るために、高倉健さんがわざわざビデオデッキを購入したシーン。
たった一本のテープを鑑賞するためにだけですよ…。
近所の人にでも頼んでちょっと見せてもらえばすむことなのに、人に頭を下げるのがイヤなのか、そもそも誰かに頼ることを由としない性分なのか…。
私はこのシーンで高倉健さんが本当に一人なのだと理解しました。
そんな高倉健さんが息子のために中国へ行き、若い通訳のお姉さんやガイドの兄さんに頭を下げまくり、必死になって助けを求める…。
必死なんてもんじゃない! なりふり構わずに、突進していく姿に狂気すら感じるほどでした…。
まさにこの健さんの豹変ぶりが、この映画の見どころでした。

■あと、良いな~と思ったのはラストシーン。
中国から帰国した高倉健さんが海辺に一人でたたずんでいるんだけど、奥さんも息子さんも皆死んじゃって、本当に一人になってしまった男の背中が良かった。
最初の頃にちょろっと出てくる背中と違って、ラストの背中は軽そうに見えました。
これは中国で出会った人や出来事が、氷のような彼の心を溶かしていった結果だと思うと、なんだかホノボノとした感情が湧いてきました。

その他、中国の自然、役者さん達も良かった。
田舎のなまりも良かったです。